特集記事

有名声優を起用したオーディオアニメドラマを使って、
エネルギーに関する未来社会を自分ごと化する
― 江戸川区立清新第一中学校 薦田 敏校長、増田穂高先生、菅原敏春先生 ―

2023/1/5

江戸川区立清新第一中学校では、理科教員が中学2年生を対象に、 社会科教員が中学3年生を対象に、「エネルギータイム!」 というオーディオアニメドラマを通してエネルギー問題を考える授業を実施しました。 「エネルギータイム!」は子供たちの関心も高まるような有名声優を起用しており、 ストーリーの中で2030年、2050年にタイムスリップし、 自分たちの行動次第で未来はいい方向にも悪い方向にも進むことを学びます。 その上で自分たちが今どのように行動すべきかを考えます。
教材は3話構成でそれぞれ独立して使用できる設計になっており、 1話ごとにストーリーの動画、専門家である予備校講師の亀田先生の解説動画、 ワークシート、教師用ガイドがワンセットになっています。
今回取材を行った清新第一中学校の薦田校長も制作の監修に関わりました。

薦田 敏校長

増田穂高先生(理科教員)

■ 実践学年・教科
中学2年/総合的な学習の時間

■ 授業内容
エネルギータイム!の第2話『水素エネルギーで進む未来!』を観て、燃料電池で発電する実験に取り組む。実験後は亀田先生の解説動画を視聴する。

第2話 『水素エネルギーで進む未来!』

2050年、水素エネルギーが普及した未来にタイムスリップした2人が、
燃料電池車や水素エンジン車、変化する環境などについて知る。

菅原敏春先生(社会科教員)

■ 実践学年・教科
中学3年/総合的な学習の時間

■ 授業内容
「エネルギータイム!」の第3話『僕らの未来は僕らがつくる!』と亀田先生の解説を観て、未来社会に向けて自分ができるアクションを考える。

第3話『僕らの未来は僕らがつくる!』

2030年、2050年を訪れた主人公4人は、エネルギーの活用状況が現在のままで温暖化が進んでしまった状況を目の当たりにする。 現代に戻ってきた4人は、自分たちの具体的な行動が次第で未来が変化してしまうことを知り、 未来をよくするために自分たちにできること、知るべきことは何か?を考える。

●エネルギーってなんだろう。自分の生活と関連付けて身近なエネルギーを実感する
--この教材を使ってみて、生徒に対してどういう学びを生み出せたと思いますか
菅原先生(社会科) 生徒たちがエネルギーについて考えるに当たって、具体的な施策「カーボンニュートラル」や「燃料電池車」といった言葉を知って興味を持ちだしましたし、仮想とは言え、2030年や2050年という未来にこうなるよ、という内容が含まれていたので、「このままじゃいけないんだな、何か変えなきゃいけないんだな」という部分での意識付けはできたかな、と思います。

動画を見ながら、教材として用意されているワークシートに、
気になったキーワードをメモしていきます。

増田先生(理科)動画はわかりやすかったです。特につい最近、福島県に移動教室に行き学習してきたので、生徒もエネルギーに興味を持ち始めたのでタイミング的にもよかったし、価値がありました。この教材が生徒にエネルギー問題に対する問題意識の向上と科学的な理解に寄与したことは間違いないと思います。

移動教室で福島県に行ったときの復習を導入として、
動画視聴へという流れで進みます。

--教材のどのような点がよかったでしょうか。
菅原先生(社会科) 動画教材だけでなく、動画を見て考えをまとめたり自分の意見を書き込んだりできるワークシートが用意されていてメモが取れるのがよかったです。

未来社会に向けた様々なアクションプランを観て、自分は誰の考えに共感をするか、
自分でもできることは何かを考えるワークです。

特にワーク2からワーク3へは、どれが一番自分の考えに近いか、そして自分なら何ができるか、という持って行き方は非常にいいと思いました。いきなり「自分で考えてみよう」だと苦手な生徒にとっては難しいので。ちゃんと段階を踏んで学んでいけると感じました。肝はやはりワーク3だと思います。「人ごとじゃない」ということを理解し、自分ごととしてとらえる、自分だったらどうするのかを考えるということができたと思います。

ワーク1はそれぞれのアクションがSDGsのどの項目に該当するかを考える課題です。
プリントが見づらい場合は、一人一台のタブレットを使って確認します。

--教材を使うことによって授業準備は効率化できましたか?
菅原先生(社会科) 「エネルギータイム!」は、エネルギー問題に関する動画とそれに対応したワークシート、教師用のガイドが用意されています。授業は、教師用ガイドに書いてある通り、動画を見てワークシートに書き込み、そしてグループで意見交換する、という流れで進めました。今なにをやっているかがわかるようにパワーポイントで項目を書いて表示する、という作業を追加するだけだったので、授業準備は非常に楽でした。

教師用ガイドには、授業の進め方や指導ポイント、
評価観点など細かなアドバイスが記載されており、これ一枚でも授業ができます。

3~4人のグループでワーク2、ワーク3について自分の考えを発表しあいます。

増田先生(理科) エネルギータイム!第2話の動画は、「水を電気分解して水素を発生させることができるんだ、やってみたいね!」というところで終わっていて、上手く実験への流れが作られています。そこで、教師用ガイドに書かれている通り、発電の実験を行いました。理科の場合はどうしても実験道具を揃える必要があるので、その点では効率化は難しいですね。今回は、理科の先輩である校長先生にも手伝ってもらいました。

ワークシートには用意するモノや実験方法がていねいに記載されています。

今回の授業では4人程度のグループに1セットの実験道具が用意されていました。
4Bの鉛筆は、美術室の短くなったものをいただいて用意したそうです。

●「エネルギー」という一見簡単そうでも実は難しいテーマだからこそ動画で生徒の興味・関心を引き出す

--生徒たちの反応/理解度は?
菅原先生(社会科) よかったと思います。人気声優に興味を持ってる生徒もいました。あと、代ゼミの亀田先生のコメント動画はウケてましたね。内容的にも説得力がありましたし。

エネルギーの伝道師亀田先生がストーリー内ででてきたエネルギーの話題について、
親しみやすく解説してくれます。

増田先生(理科) 発電の実験で、“LEDが光らせる”という具体的な成功体験が味わえる点で、生徒は非常に満足していたと思います。また、動画については、水素がクリーンなエネルギーとして期待されていることや、どのような分野に応用できるのかというのがわかりやすく解説されていました。東京では実際に水素を燃料としたバスに乗る機会も増えているので、これらも生徒に響いた感触があります。

動画を見た後は、燃料電池でLEDライトが光る実験をします。
生徒たちは実験が大好き。皆目を輝かせていました。

--「動画」という教材についてどう思われますか?
増田先生(理科) 先生それぞれだと思いますが、私は教科書だけではなくてそれを超えた知識を伝えたいときに「動画」という自ら気付く事が出来るツールをよく使います。今は生徒一人に一台タブレットが与えられているので、授業という枠でなくても「これ観といて」と言うことができますので、時代に合った教材としてその点では助かりますね。今日も、LEDが光る瞬間を動画に収めたり撮影したりすることができました。

●あらゆる教科で学べるエネルギー。教科を超えてつなげることの難しさと大切さ
--エネルギーについては今後、教科学習の中で組み込めそうですか?
菅原先生 社会科だと公民の「国際社会」でエネルギー問題が出てくるので、そこと関連付けることはできるのかなと思っています。

--エネルギーはなかなか身近に感じにくいテーマでもあるかと思いますが、授業の中でエネルギーの要素を含めてみていかがでしたか?
増田先生 燃料電池の実験が、各家庭にあるもの、例えば今回実験で使った鉛筆などでも簡単にできるというのが自分にとって大きな学びでしたし、 追加で演示して見せた水素ガスと空気中の酸素から直接電流を取り出すというのはおもしろかったです。鉛筆によってはうまく発電できないものもあったので、 どんな条件だとうまくいきやすいのかは事前に実験の成功率をあげるために検証はしました。
生徒も福島県の移動教室以降、エネルギーに関する興味と課題意識が高まっているので、私もそれを伸ばすような授業をこれからも考えていきたいです。

--エネルギー教育を実践する意義や展望などがあればお聞かせください。
薦田先生 エネルギーなくして生活は出来ません。教育内容と手段には様々あるので、何を取り上げ、どう指導するかという事を教員が考える中で、これからの日本がどのようにエネルギーを得てどのように使用していくか考えさせるイメージが具体化できれば、いわゆるエネルギー教育が広がっていくのだろうと思います。そのためには各教科で学んでいる事を系統立て、教科横断的に指導する教員の力量が必要だろうと思います。
指導事例の蓄積が進み、社会科で教えてる。理科で学んだ。数学で出てきたなど、いろいろなことを総合的に指導していく視点みたいなのがはっきりしてくれば、エネルギー教育を柱とした実践を行う先生も増えてくるかもしれませんね。

--社会や理科、総合的な学習など、いろんなところで学んだが点と点が結ばれて、「こういうことだったんだ!」と理解が深まっていくと生徒たちにとってもいいですよね。
薦田先生 おっしゃる通りだと思います。エネルギーは身近な言葉ですが、普段使いの言葉と科学的な用語としての意味が違うため、難しいから嫌だなってなっちゃう生徒もいると思うけど、一方で面白いって思う生徒も実は多いと思います。先生が教える。教え込む。というよりは、正しく導く事ができるコンテンツやエネルギーについてのホームページを知らせるなどして、生徒が自分事として自走できるようにファシリテーションするっていうのもいいかもしれませんね。

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