特集記事

宇宙のエネルギーを地球で使う!?
小学生とエネルギーの未来について考えてみた
― 一般社団法人 エネルギー情報センター 理事 江田健二 ―

2023/1/16

一般社団法人 エネルギー情報センター 理事 江田健二氏

「小学校でエネルギーの授業をしてみませんか?」
提案に嬉しく感じながらも正直なところ、少し迷いました。筆者はエネルギー業界で20年近く仕事をしていますが、お会いするのは企業の方々、しかも業界の方々がほとんどです。年30回くらいの講演、これまでに19冊の書籍も執筆をしていますが、そちらも大人の方を対象にしたものです。小学生と中学生の2人の息子を持つ父親として、なんとなく子供との会話術は身に着けているつもりですが、「エネルギーについて小学生に上手に伝えられるだろうか?つまらなくて聞いている生徒が寝てしまったらどうしよう?」といつもとは違う緊張を感じました。「この感覚って何だろう」と少し紐解いてみると、エネルギーにまとわりつくある種の幻想を感じていたからでしょう。

「エネルギーについて語る、未来のエネルギーについて考える」というと、どうしても難しく専門的に感じられます。「証明できるデータに基づいて話さなくてはいけない」「間違ったことを話してはいけない」という雰囲気が漂います。しかし、本当にそうでしょうか?

私たちはエネルギーを毎日利用しています。日々の生活になくてはならない身近なものです。「生活に欠かせない」という視点で考えると食べ物(食料)に似ています。食べ物については、プロの料理人、お米や野菜を育てる生産者の方、そして生活者の一人である私たちも「どんな食事が好きか、明日はどんな食事をしたいか」と日々自由に考え、話し合っています。同じようにエネルギーについても食料と同じように日頃から自由に話し合ってもよいのではないでしょうか。知識量の多い少ないに関わらず、自分なりの意見を共有しあってもよいのではないでしょうか。お互いに意見を共有することによって、興味を持ち、更に知識が深まります。そうすることで、エネルギーの未来について建設的に考え、よりよい社会を創っていけるのではないでしょうか。

私たちの利用するエネルギーは時代と共に増えてきています。日本では明治時代に電気を利用するようになってから、水力発電、火力発電、原子力発電、太陽光発電や風力発電などの再生可能エネルギー等と利用されるエネルギーが拡がってきました。

図1「歩行者の振動を利用する発電」
出展:https://globalenergyharvest.co.jp/vibration-power-generation/

現在も新たな発電技術の芽が育っています。ここでいくつかご紹介します。1つ目は振動による発電。人の歩く振動、自転車や車が道路を通る際の振動等を利用し発電する技術です。2つ目が透明な太陽光パネル。光を通すので窓ガラスなどでの利用が期待されています。3つ目として宇宙での太陽光発電。宇宙に巨大な太陽光発電設備を設置し24時間発電します。地上には無線で送電します。4つ目として植物による発電。植物と共存する微生物が生体活動をする際に放出されるマイナスの電荷を拾って電力に変換する技術です。そして、そういった様々な場所で出来たエネルギーを貯める蓄電技術、電気を無線で送る無線給電技術などの開発が進んでいます。

今回は武蔵野市の境南小学校にお邪魔して、小学校6年生と一緒に「エネルギーの未来」についての発表会を開催しました。先ほど紹介した技術を参考にしてもらい「エネルギーの未来はどうなっていくと思うか、10年後、20年後にどのように製品やサービスが生まれているか」をチーム毎に考えてもらい、発表してもらいました。

発表1週間前に各クラスで実施した授業では、先ほどのエネルギー技術を学んだ後、5人程度で1チームとなり興味のある技術を選択してもらいました。「コンセプト」「アイデアの具体(いつ・どこで・だれが・どのようになど)」「アイデアのよさ」の順に考えてもらい、プレゼンテーション資料を作成してもらいました。そして10月11日、3クラスの生徒が体育館に集まり発表会を実施しました。

各クラス代表して2チーム、合計6チームが5分程度の発表をしてくれました。発表してくれたものをいくつかご紹介します。

「透明な太陽光パネル」を街中に設置するアイデアの発表資料
発表資料はすべて子どもたちの手作りです。
アニメーションや図の挿入などプレゼン資料としての工夫も凝らされていました。

宇宙で太陽光発電ができるのではというアイデアの発表資料
安全性を記載して自分たちのアイデアの根拠づけを行います。

振動による発電では、パソコンなどのキーボードに埋めて振動でタイプする毎に充電ができるようにする、人やモノの振動を感じることで防犯対策にも役立つ、交差点や体育館に敷くなどのアイデア、透明な太陽光パネルでは、建物以外にも乗り物の窓に使うなどのアイデアがでました。

宇宙での太陽光発電では、地球温暖化対策への貢献や災害時の行方不明者減少などに役立つとの意見、植物による発電では、畑に利用することで農業しながらの発電、景観を損なわずに発電ができる等の意見がでました。

発表会に参加した他の生徒達から、大人顔負けの鋭い質問がでました。例えば、「アイデアを実現するにはどれくらいかかるのか?」「どれくらいの費用がかかるのか?」「生み出された製品やサービスは、どんな人が使うのか?」「安全面はどうか?」「今ある〇〇と比べてどのような良い点があるのか?」「どれくらいのエネルギーを発電できるのか?」などです。発表者は自分達だけでは気がつかなかった視点からの質問を受けることで更に学びが深まったのではないでしょうか。

子供たちは今回の授業を通して、大きく3回の学びがあったのではないでしょうか。1回目はチームでアイデアを議論し纏めた時。2回目は自分達のプレゼンテーションに対する質問に答える時。そして3回目は他のチームのプレゼンに知識や知恵を総動員して質問する時です。

各チームの発表、質疑応答が終わった後に私から30分程度の講義を実施しました。
講義の中では、
・時代と共に新しい発電方法が生まれてきたこと
・これからも新しい発電方法が生まれてくること
・多くのエネルギーを利用することで日本人の生活はとても豊かになったこと
・世界中の人がエネルギーを豊富に使い、生活を豊かにしていくには
助け合いが大切なこと
・他の国よりも先に豊かになった日本ができることは多いこと
・日本の優れた技術を世界中に広めることで実現に一歩近づくこと
等を伝えました。

各クラスでの授業、体育館での発表会を通じて、生徒はエネルギーについて今までよりも身近に感じてくれたのではないかと思っています。「自分の意見が正しいか、間違っているか」はもちろん重要です。しかし、お互いに考えを共有し合い、新しいことを学び合っていく、専門家ではなくても「自分に直接関係する未来」として自分なりの意見を持つことの大切さを感じてくれたと思います。

「自分で一からエネルギーを勉強しないと。」そんな風に考えると、なかなか授業でもエネルギーを取り上げにくいと感じるかもしれません。しかし、電気やガスといった身近なところでその使い方について子どもたちと会話をしてみる、将来どんな発電方法が生まれるか自由な発想でアイデアを出し合ってみる、それだけでもエネルギーについて考えるきっかけになるのです。
子どもたちとの日常的な会話のテーマの一つとして、ぜひ「エネルギー」を取り上げてみてください。

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