特集記事

電気代、ガス代が高くなったり、安くなったりするのはどうしてか?
― 一般社団法人 エネルギー情報センター 理事 江田健二 ―

2023/3/13

 ここ最近、電気代、ガス代高騰のニュースが頻繁に報道されています。しかも、ほんのちょっと高くなるわけではなく、1.5倍や2倍になったというニュースです。電気代、ガス代が高騰しているのは日本だけではありません。イギリス、フランス、ドイツでも2倍、3倍となり、市民が日々の生活に困っています。どうして電気代やガス代は急に高くなってしまったのでしょうか?逆にどうすれば、どのようなことが起これば、安くなったりするのでしょうか?このコラムでは日本の電気代、ガス代が高くなったり安くなったりする理由について深掘りしてみたいと思います。

「電気代、ガス代が高くなったり、安くなったりするのはどうしてか?」この質問を2つの異なる時間軸で考えてみましょう。1つ目の時間軸は、1年、2年という短い時間軸です。多くの方が知っているとおり、日本は石炭や石油などの天然資源に乏しい国です。ですので、海外の国々と協力して天然資源を調達しています。私たちが何気なく自宅で利用している電気やガスは長い旅をしているのです。海外で天然資源を採掘し、それを大型船で日本まで運びます。天然資源を燃料として電気やガスを生産し、自宅に届けています。
 例えば、電気を作る方法の1つに火力発電があります。火力発電では、燃料として石炭や石油、液化天然ガスなどを利用します。石炭はオーストラリアやインドネシアから、石油はアラブ首長国連邦やサウジアラビアから、液化天然ガスはオーストラリアやカタールから輸入しています。
 海外から輸入した資源を活用して電気やガスを作っている理由から国際的な情勢の影響を大きく受けます。最近の電気代やガス代の高騰は、ウクライナへのロシアの侵攻が影響しています。

 日本はロシアからの天然資源の輸入がそこまで多くないのにどうして影響を受けているのでしょうか?ロシアは石炭、石油、天然ガスをドイツ、フランスなど欧州の各国に輸出しています。しかし、侵攻以降はウクライナを支持する欧州の国々がロシアからの燃料輸入を減らしています。その代わりとして欧州の国々はオーストラリア、中東諸国から燃料を積極的に輸入し始めました。その結果、国同士での燃料の取り合いとなり、価格が高騰しているのです。日本もこの価格上昇に巻き込まれ、結果として家庭や企業の電気代、ガス代の高騰に繋がっています。
 逆に安くなる時もあります。最近では、世界的にコロナが蔓延した2020年、2021年です。世界中で工場の生産活動や人の移動が制限されていた為、世界的に燃料が余ってしまいました。その結果、日本は海外から燃料を安く輸入することができたので電気代やガス代は非常に安かったのです。

 もうひとつの時間軸として数十年という長さで考えてみましょう。日本では電気、ガスはいつ頃から利用されるようになったのでしょうか?日本で利用されるようになったのは明治時代です。その頃は、水力発電が主な発電方法でした。昭和になり、火力発電が主力になってきます。そして原子力発電も利用され始めます。平成頃から太陽光発電や風力発電などの再生可能エネルギーに注目が集まり始めます。令和の今は、水力、火力、原子力、再生可能エネルギーのバランスを取りながら利用しています。
 電気やガスは姿や形がないので、「ずっと同じもの」のように感じます。しかし、実は作られ方が時代とともに変わってきているのです。新しい作り方が生み出され、実用化されることで、それまで以上に多くの電気やガスが生産できます。加えて、生産コスト自体が安くなります。

時代と共に電気やガスの単価あたりの価格は安くなってきています。しかし、電気代やガス代を今でもそれなりに支払っています。それは私たちの生活が豊かになり、利用する家電が増えたり、お風呂に入る頻度が昔に比べて増えたりと以前よりも電気やガスを沢山使うようになったからです。

「電気代、ガス代が高くなったり、安くなったりするのはどうしてか?」という疑問を深掘りすることで、
 ・日本の電気代、ガス代は国際的な影響をうけながら高くなる時期や安くなる時期があること
 ・長い時間軸でみてみると電気やガスの作り方は変わり続けている
  より効率的に電気やガスが作れるようになったので同じ量の生産価格は下がっている
  しかし、私たちが以前よりも豊かな生活を送るようになったので、電気やガス代自体は今もそれなりに払っていること
  がわかります。

 これまでも時代と共に電気やガスの作り方が変わってきたように、これからも新しい作り方が生まれてくるでしょう。世界を見渡すとまだまだ電気もガスも足りません。発展途上国の人達が私たち日本人のように豊かな暮らしをするためには、これまで以上に多くの電気やガスが必要になります。加えて、現在の小学生が大人になる頃には人類の宇宙への進出も一般的になってくるでしょうから、宇宙に人や物を運ぶためのエネルギーも必要になってきます。新しい電気やガスの作り方を見つけ出し、より多くの人が安価に利用できるようにする、そういった研究は進んでいます。

【参考:JAXA研究開発部門HP:https://www.kenkai.jaxa.jp/research/ssps/ssps-ssps.html

例えば、
・振動による発電
人の歩く振動、自転車や車が道路を通る際の振動等を利用し発電する技術

・宇宙での太陽光発電
宇宙に巨大な太陽光発電設備を設置し24時間発電します。地上には無線で送電します。

・植物による発電
植物と共存する微生物が生体活動をする際に放出されるマイナスの電荷を拾って 電力に変換する技術

等です。


 将来的にはより手軽にそして豊富に電気やガスを利用できる人が増え、世界中の人が日本人のように豊かな暮らしができることが望まれます。だからといって、それによって環境破壊が進んではいけません。これからの私たちが挑戦する課題は、「途上国が日本のように電気やガスを利用することで豊かになっていくことの手助けをする」と「地球に今よりも負担をかけない、むしろ減らしていく電気やガスの作り方を生み出していく」ことです。少し難しく感じます。しかし、これまでも時代と共に新しい方法をどんどん生み出してきました。そう考えるときっと2050年頃には実現しているのではないでしょうか。

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