特集記事

ゲームを通してエネルギー問題に興味を持ち、自ら調べて主体的に学びを深める
― 世田谷区立千歳中学校 青木 久美子教諭 ―

2022/10/11

世田谷区立千歳中学校は、「総合的な学習」の中でSDGsに関する講座を10講座ほど実施しており、その一つに「エネルギーと環境」をテーマにした講座があります。今回取材したのは、そのうち「エネルギーと環境」をテーマにした講座の第2回目です。講座を選択した中学3年生の20名強の生徒に対して青木久美子教諭が授業を行いました。授業では、ボードゲームで遊び、楽しみながらSDGsを学べる「えねもっち」という副教材を使って、生徒が自主的に学習に取り組める工夫をしていました。グループ単位で進めたゲームでは、「ここの答えがわからない!」と自主的にインターネットで検索したり、「得点はこうカウントしよう!」とゲームのルールも自分たちで考えたりして進めていました。

青木久美子教諭

●自由って面白い! 「自主性」を重んじた双方向の講義
--実際に行う予定の授業時間は何時間くらいですか?

青木先生今回の授業は通常の教科授業とは違って、総合的な学習の中で「エネルギーと環境」をテーマにした選択講座です。年間で5回ぐらいを予定しています。今回はそれの2時間目です。1時間目は全体の計画やグループ分けなどをおこなったので、本格的な授業は今回が初めてです。

--これまでもエネルギー学習の授業を行ったことはありますか?

青木先生この学年は1年生の時から私が担当していて、理科の授業の中でエネルギーや環境などの視点で取り組んではいました。SDGsって何?とか、17個の目標については1年生や2年生の時に理解はしています。

--今回の授業計画を立てるときに気をつけたことは?

青木先生通常の教科授業のように欲張って先生があれこれ教えてしまうのではなく、あくまでも「自主性」を重んじることを心がけました。教えるのではなく、自らたどり着いて知ることが大切だと思ったからです。教科授業は学ばなければいけないことが決まっていますが、総合的な学習の時間は、生徒たちの様子を見ながら決めていきます。今日も自分たちで「えねもっち」ゲームのルールを作っていましたね(笑)。一番大事なのは、どのような活動をして何を学んでどのような考えを作っていくかだと思っています。

ルールブックをベースに、グループメンバーと協力し合って、
自分たちでゲームの理解を深めていきます。

●生徒同士で“学び合う”、ゲームの楽しみ方・進め方は無限大
--教材「えねもっち」を活用するメリットは?

青木先生SDGsというものを先生から学んだり、先生から示された課題に取り組んだりしていましたが、今回は逆向きなんですね。ゲームでクイズを解くことによって、SDGsの目標やそこに付属している課題などを自分たちでもう一度再生したり、確認したり、新たに知ったりしていくことができたと思います。

「答えがわからないなら調べたらいいんだ!」と
iPadを使って自分たちで答えにたどり着きます。

--教材は使いやすいですか? 利用は簡単ですか?

青木先生前もってルールブックを見て予習しておいてねと言ってありましたが、準備ができている生徒とできていない生徒がいました。でもグループ学習なので、切ったり並べたりの準備をしているうちに教え合ったりしてなんとかなっていました。先生が生徒に教えるという構図だけではなくて、文部科学省学習指導要領などでも言われている生徒同士で“学び合う”ということも大切で、それが実践できていたと思います。得点の付け方も、どうするかを自分たちで考えて「星の数」になりました。中学3年生なりに工夫しながら、1つ正解したら1点ではなく、難易度が高いほど得点も高い方が達成感を得られるな、と思いました。ローカルルールも作ってもいいですし、自由度が高い点がいいと思います。

「私のえねもっちはこれ!」と、お気に入りのキャラクターを
自分の相棒として選択します。

クイズは難易度によって★の数が変わります。
それを点数にするという案は生徒自身で考えました。
不正解だとその分がマイナスになる、という理解で進んだようです。

●答えを見つけることも楽しみの一つ! 目標にたどり着くプロセスに自由度を持たせる
--生徒たちの反応/理解度は?

青木先生上々だったと思います。えねもっちに愛着が湧いていた子も多かったです。ゲームでは答えにたどり着くまで結構苦労していたので、当たったらとても喜んでおり、間違えても“調べる”というプロセスが大事で、それによって不正解ということがわかっただけでも学びとして十分だと思います。生徒によっては「先生、正解はどこに書いてあるの?」と聞いてくる子もいました。従来の授業では先生が答えを提示することが多いですから、当然だと思います。今回の授業は答えを出すことだけが学びではないのですが、答えが見つからないと投げ出してしまいそうになる子もいます。その辺の塩梅が難しいですけど、それも含めて“楽しい”という体験になると私は思います。正解がないことが世の中には多いので、ゲームを通して少しずつわかり体験できれば、と思いました。

--授業を進める中で工夫したことは?

青木先生「自主性」を重んじるようにしたことです。ただ、自主性というのはなんでも好き放題にやっていいということではなくて、目標に向かってどんなプロセスを踏むか、その自由度が高いということです。

--この授業がどうアウトプット型の学習につながりますか?

青木先生まず任務報告書と言われるワークシートに気づいたことや、ゲームの成果をチャートでまとめることで、ゲームの中で学んだことを確認できます。そして、実はこの授業の大きなゴールは、このえねもっちゲームの魅力を他の人にも伝えるためのコマーシャル(紹介ムービー)を作ることなんです。「どこかの小学校にえねもっちを紹介する」というシチュエーションを想定したムービーを作ることがアウトプットにもつながります。コマーシャルはグループ単位で作成し、個人ではそれぞれ新聞を作る予定です。

グループ単位でえねもっち紹介ムービーを作ることが年間の目標です。
ムービー班、ダンス班、ソング班などいろいろな担当パートがあります。

--この授業計画を使ってみたい他校の先生方へのアドバイスがあれば

青木先生SDGsというものを知るためにゲームをやってみると、生徒たちが17個の目標をなんとなく実感できるじゃないかなと思います。通常であれば「SDGsとはなにか」という講義型の授業を行いますが、生徒たちには残らないことが多いです。でも今日みたいにゲームで体験していくと、すべての説明は難しいとしても、SDGsには貧困とか環境とかエネルギーとか、そういう問題があるらしいよ、っていう程度は意識するようになります。あとは、世田谷区、東京都、日本、地球っていうように、視野を広げることが大切です。学校の授業では指導計画をつくるなかで、狭い地域のことしかできないことが多いですが、えねもっちだと地球規模に視野を広げることができると思います。17個の目標をすべて言えなくても、今日の中から1つでも2つでもスローガンではなく、自分の言葉で具体的な事例や問題を挙げて、自分の考えと併せて説明ができれば、中学校3年生ではすごいんじゃないかなって思います。

--今後、どのような授業をやっていきたいですか?

青木先生今日ゲームの中で得られた課題、インターネットで調べた課題の中で、エネルギーや環境に関するものに絞っていきます。国立科学博物館や自然教育園の方々とオンラインで繋いで、都会の中にある自然を残していくためにどうするかレクチャーをうけ、子どもたちと一緒に考えていくということを進めたいと思っています。調べ学習だけで終わってしまうのはもったいないので、専門家の方々からレクチャーを受け生徒と共に私も学びたいと思っています。

--青木先生も参画されてできあがったえねもっちゲームはどうでしたか?

青木先生えねもっちを作ってくださるときに「双六」という案がありましたが、中学3年生で双六ではちょっともったいないな、と思いました。できあがったえねもっちは子どもたちが考えるべきことがたくさんあって自由度も高いものに仕上がって良かったです。

■謎解き!えねもっちゲーム~エネルギーの問題に答えて地球を守ろう~
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