特集記事

“電気を作る”立場になって
発電戦略を練る!
自分ごととしてエネルギー問題に向き合える体感的な学び
- 八王子市立いずみの森義務教育学校 井戸季詠子教諭 -

2023/2/17

小中一貫校である八王子市立いずみの森義務教育学校では、9年生(中学3年)を対象に、理科の時間を使って井戸季詠子教諭がゲームを通してエネルギー問題について考える授業を実施しました。デジタルコンテンツ「ベストな発電プランを考案せよ!~ゲームで国のエネルギー戦略を体感しよう~」を使って、エネルギー資源や発電方法、日本のエネルギー事情等について学びます。

井戸季詠子先生

■ デジタルコンテンツ「ベストな発電プランを考案せよ!~ゲームで国のエネルギー戦略を体感しよう~」とは
ゲームの中で、自分が発電を計画する立場(普段の消費する立場と逆)を経験できます。決まった予算の中で、どのような発電戦略を立てるのかを検討し、それぞれの発電方法のメリット・デメリットを再確認します。ゲームには二酸化炭素の排出量が組み込まれており、地球温暖化への意識も高められます。

所持金「3,000万マネー」の予算で発電施設を購入。どの施設をいくつ買うか、どのように組み合わせるとよいのかなど、工夫しながら発電計画をたて、高得点を目指します。
ゲームの中では、1人5回、天候や社会情勢のイベントカードをめくります。カードの状況によっては発電がストップする場合も発生するため、一つの発電方法のみに頼ることがリスクにもなる可能性があることも学習できます。

● 教科書だけでは学びきれない発電の実態にフォーカス
――このエネルギー戦略ゲームは、井戸先生からの提案を受けて作られたそうですね。制作にも関わられたとか。

井戸先生そうなんです。エネルギー問題についてゲーム感覚で楽しく学べるツールがあるといいなと思って、提案しました。 最初は紙で、カードゲームにしようという話も出たんですけど、そうなると現場の先生がいっぱい印刷して、切って……となるので、デジタルがいいなぁと希望しました。 自分も教員だから分かるんですけど、授業の準備のためにいっぱい時間がかかるとなると、すごくいい教材でも、使うのをやめようかなってなっちゃうこともあるので、「すぐにできる」というところもこだわりたいなと思いました。ワンクリックでいつでもできますし、デジタルで作られてよかったです。

――いろいろとこだわりがあると思いますが、特に工夫された点はありますか。

井戸先生立場の逆転っていうところが工夫した点です。教科書だと、エネルギーについて学んだ後、じゃあどうする?と考えを促すのが難しいんです。「へぇ、こんな発電あるんだ。そっか~」で終わっちゃうので。 電気を作る側の立場って、経験できないというか、生涯関わることがない人が多いんですけれど、立場を変えることによって、理解が深まるんじゃないかと思いました。 作る側の立場を、デジタルで簡単に体験できることが、このゲームのすごくいいところだと思います。

――ゲームでは、コストや発電力、二酸化炭素の排出量、そして発電を左右する「天候」と「社会情勢」のカードがありますね。

井戸先生再生可能エネルギーは、コストは高いけれど二酸化炭素は出ないというところにも注目してもらいたくて、二酸化炭素の項目は入れたいという思いがありました。ただ、それをコストとして反映させるのがすごく大変だったのですが、今回は架空の「マネー」にして設定しました。
エネルギーのことを学んでも、発電所を1つ作るのにいくらくらいかかるのかとか、コストや発電力まで考えたことがないかもしれないですよね。

発電施設を購入したら、1プレーで1人5回、「天候」と「社会情勢」のカードをそれぞれめくります。カードの結果によって発電量などが変わります。

――火力発電の種類が多いですね。

井戸先生これは、他の方からいただいたアイデアなのですが、燃やす物別に「火力発電」の項目を作りました。日本の9割が火力発電なのですが、教科書は「火力発電」と一括りで、何を燃やすのかまでは書かれていないんです。燃やす物は石油・石炭・天然ガスなのですが、ちょうど1対1対1くらいの割合なので、3つに分けようとなりました。これが、火力をほぼ使っていないような別の国なら分ける必要はないのですが、日本のゲームなので、日本の実態と合わせようとなりました。

●ただの丸暗記にしない! 班で話し合うことで深まる学び
――今日の授業までに、エネルギーの学習はされましたか?

井戸先生2学期の初めぐらいから、エネルギーの単元は5時間行っていて、いろいろなエネルギー資源を電気に変えて、日常生活の中で使っているよね、すごく大事だよね、ということを学んでいます。 さまざまな発電方法があるということ、いい点、悪い点についても事前に学習してきています。原子力発電は二酸化炭素が出なかったり、効率がよかったりするけれど、リスクがあるよねとか、水力発電は日本の気候には合っているけれど、大規模な施設が必要だから環境破壊につながっちゃう面もあるよねとか。かなりしっかり学んだ上で、今回の授業は、エネルギー学習のラストということで行いました。

――エネルギーの学習はとても大切だと思いますが、授業をされるにあたって工夫されたことはありますか。

井戸先生理科の「運動とエネルギー」の単元中の、「エネルギー資源とその利用」の章は、細々と覚える知識がとても多くて、計算とか演習がちょっと少ないんです。教科書のページ数でいうと、かなりたくさんあるんですが、楽しい部分がないというか、盛り上がりに欠ける章なのです。その中で、丸暗記にならないように、できるだけ楽しみながらということを意識しました。
やりようによっては、一方的に教員が語る、子どもは聞く、みたいな感じで授業が終わってしまうんですが、子ども同士でお互い話し合ったりすると、楽しく勉強できるというのもあるし、逆に私が1人で語るより、「あ、そんなことに気づくんだ」みたいなこともあるので、対話の場面もちょっと作るように心掛けています。

● 何回もチャレンジして“イケてる発電”で高得点を狙う!
――今日の授業で工夫されたことはありますか。

井戸先生子どもたちに何セットもゲームをさせることで分かることもあるかなと思ったので、結果がすぐ出るように、そこの部分をちょっと変えました。1時間の授業で何回もゲームにチャレンジできるように、ワークシートを両面にして、班で話し合って1つのプランを考え、その後、個々にプランを考えるようにしました。1人だと気づかないことや思いつかないことも、例えば4人でやったら、4人分の考えや結果が出てくるので、グループワークはよいと思います。

これまでに学習したエネルギーの知識をふまえて、班ごとに話し合って発電計画を立てます。

班で話し合ったプランをワークシートに記入し、この発電計画にした理由も書きます。

発電計画が完成したら、実際にゲームにチャレンジ!

――事後学習のワークシートもありますが、この後の授業でされるのでしょうか。
井戸先生教材では、ゲームの授業をやって、その後、事後学習の調べ学習のワークシートでアウトプットという流れになっているのですが、今回は順番を逆にして先にやりました。習ったことについて立場を変えて考えて、それを友だちに説明して、自分でまとめる、といった感じでアウトプットになるので、どちらを先にやっても大丈夫だと思います。
先にやると、二酸化炭素への意識の高まりがすごくて、みんな二酸化炭素にこだわってプランを立てていましたね。

事後学習用のワークシート。今回は、事前に学習を済ませました。

コンテンツの使い方を含む、授業プランのPDFも用意されています。

――どの発電方法を使うか、組み合わせについても、生徒のみなさんはいろいろ考えていましたね。

井戸先生そうですね。エネルギーについて、改めて気づいたこともあると思います。
「天候」と「社会情勢」のカードで発電が左右されるゲームなので、どんな時でも水力発電は割と大丈夫なんだなとか、ゲームをやる中で気づいていくことがたくさんあります。

――みなさん、操作に迷わずどんどんプレーされているようでした。

井戸先生とても使いやすく作っていただいたと思っています。パソコンが先生の端末1台の場合でも授業を行えるように作られていますが、今回改めて思ったのが、1人でもプレーできるっていうのがよかったです。
(このゲームを)作っているときは、ゲームで競うから2人以上の対戦と思っていたんですが、1人1台ずつ端末がある学校にとっては、1人で何回もシミュレーションできるのはすごくいいなって思いました。同じ発電の組み合わせでも、めくるカードによって結果が違ってきます。運が悪かったといって何回もチャレンジできますよね。

● エネルギー授業の総まとめ! 楽しみながら理解を深める
――エネルギー戦略ゲームの授業を行った感想を教えてください。

井戸先生思っていた以上に、直感的に操作できていましたね。エネルギー問題を「ゲーム」にすることで、いつもそんなに熱心に授業に取り組んでいない子が、すごく意欲的にやっているとか、そういうメリットも感じました。
ゲームを通して、子どもたちの理解が深まったと思います。安定して効率よく発電できる“イケてる組み合わせ”を考えるのですが、(カードをめくって)「地震起きすぎじゃないですか」と言う子も多かったですし、二酸化炭素に対しても、カーボンニュートラルの勉強をしているので、再生可能エネルギーでこだわりをもって組み合わせる子もいました。

「水力発電はすごくいいんですね!」といろんな子に言われました。水は外国から運んできているわけじゃないから、紛争が起きるといった社会情勢の影響は受けない。石油のように、水の値段が上がったり下がったりもないですし。「水力発電、最強じゃないですか」と。
何回もシミュレーションをやっていくうちに、リスクに気づいてお互い補うような安定した組み合わせを考えたり、外国の情勢が日本のエネルギーに影響を与えているということに気づけたりしたかなと思います。

最後は班ごとに、立てた発電計画とその理由、気づいたことなどを発表しました。

天然ガスがとってもいいということに気づいた子もいました。石油や石炭は中東情勢によって変わるし、石炭も二酸化炭素が出ちゃうから、効率が悪い、コスパが悪いけれど、天然ガスは二酸化炭素が結構少ない上に、情勢的にも割といいっていうところで、天然ガスと水力を組み合わせて、最高ポイントを出していました。そういうとこに気づけるっていうのがすごいですね。

ワークシートには発電計画の理由とふり返りがびっしり。「再生可能エネルギーはかなり天候に左右される」「リスクを分散させることは大事だと思った」などの気づきが。

――エネルギー戦略ゲームを使った授業計画を検討している先生方に、お勧めのポイントを教えてください。

井戸先生ワンクリックで手軽にできるのでぜひやってみてください。準備がいらない、
というのが一番のポイントです。個別最適化というんですが、端末が1人1台になったことによって、自分でできる子はどんどん進めていけるので、授業の中で全員一律ではなく、プラスアルファで取り入れるのもありだと思います。夏休みの宿題にしたり、自宅でチャレンジしたりもできますよね。 エネルギーは見えないから、理解するのは難しいところがあります。実際に使っているし、絶対ないとダメなんだけど、それが実感できるものが少ない。それをゲームの中で体験できるのがいいところです。 ゲームでやると、忘れにくいんじゃないかなと思います。外国で起きている紛争についても、日本にも影響があるのだという学びもありますし、ゲームで頭に残っていたら、ニュースで流れたときに「あ、なんか聞いたことあるかも」と思えるかもしれないですね。

授業後に子どもたちに感想を聞いたところ、特に操作で迷ったことはなく、ゲーム感覚で勉強できたのは楽しかったとのこと。「自然とか、予測できない部分があった」「今まで、どう組み合わせたらちゃんと発電できるのかとか、考えたことがなかった」「日本で発電を考える人たちが、どうやって考えているのか想像できた」「外国の発電戦略ゲームもやってみたい」などの意見が出ました。

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